井《ヰ》の子《コ》」から出たものが、聯想で、猿猴其まゝ「ゑんこう」とも発音したのかも知れない。
若し又、ゑんこう[#「ゑんこう」に傍点]を猿猴に違ひないとすれば、水を守る神猿を、やがて水の精霊と見て、猿即河童として、水界に多くゐる方をゑんこう[#「ゑんこう」に傍点]と言ひ別けたともとれる。
馬曳き猿を、河童の変形とする事は、猿とゑんこうと[#「ゑんこうと」に傍点]、関係の説明はついても、まだ/\出来ない。唯、此護符を貼つて、馬の災厄を除くことの出来るものとした原因だけは、わかつたと思ふ。馬術の家の伝へとても、やはり猿曳きや、馬曳き猿の信仰を述べた神人等のものと岐れる元は、一つであつたであらう。

     四 椀貸し淵

大和の水木直箭さんの作つた柳田先生の著作目録の中にも、一つの重要な項目になつてゐるものに「椀貸し塚」がある。私一己にとつては、非常な衝動を受けた研究である。今は、先生の論理の他の一面に、かうした考へ方もなり立ちさうだ、と言ふ点だけを述べて、重複を避けたいと思ふ。
椀貸し伝説の中には、河童を言はないものも多い。だが此は、塚の内部に、湧き水のある様な場処に移した話が、後に
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