きり[#「しようじっきり」に傍線]と言ふ黒尉は、其上更に、もどき[#「もどき」に傍線]と言ふ役と其からさいほう[#「さいほう」に傍線]と称する役方とを派生してゐます。此は、多分才の男系統のものなる事を意味する役名なのでせうが、もどき[#「もどき」に傍線]の上に、更に、さいほう[#「さいほう」に傍線]を重ねてゐるなどは、どこまでもどき[#「もどき」に傍線]が重なるのか知れぬ程です。畢竟、古代の演芸には、一つの役毎に、一つ宛のもどき役[#「もどき役」に傍線]を伴ふ習慣があつたからなのです。
つい[#「つい」に傍点]此頃も、旧正月の観音の御縁日に、遠州奥山村(今は水窪町)の西浦所能《ニシウレシヨナウ》の田楽祭りを見学しました。まづ、近年私の見聞しました田楽の中では、断篇化はしてゐますが、演芸種目が田楽として古風を、最完全に近く、伝へてゐるものなることを知りました。

     一九 もどき猿楽狂言

西浦《ニシウレ》田楽のとりわけ暗示に富んだ点は、他の地方の田楽・花祭り・神楽などよりも、もつともどき[#「もどき」に傍線]の豊富な点でありました。外々のは、もどき[#「もどき」に傍線]と言ふ名を
前へ 次へ
全63ページ中59ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング