を授けるか、受けるか分らぬ鬼神も来る様になりました。さうしたまれ[#「まれ」に傍線]に而も、頻々とおとづれるまれびと神[#「まれびと神」に傍線]も、元は年の交叉点に限つて姿を現したものでした。此等の常世人の、村の若者に成年戒を授ける役をうけ持つてゐた痕が、あり/\と見えてゐます。春祭りの一部分なる春田打ちの感染所作《カマケワザ》は、尉と姥が主役でした。これの五月に再び行はれる様になつたのが「田遊び」です。此にも後に、田主《タアルジ》などゝ言ふ翁が出来ますが、主要部分は変つて居ます。簑笠着た巨人及び其|伴神《トモガミ》なる群行神の所作や、其苛役を受けて鍛へ調へられる早処女《サウトメ》の労働、敵人・害虫獣等の誓約の神事劇舞《ワザヲギ》などが其です。此が田楽の基礎になつた「田遊び」の本態で、其|呪師《ノロンジ》伎芸複合以前の形です。
高野博士が「呪師猿楽」なる芸能の存在を主張せられたのは、敬服しないでは居られません。但、本芸が呪師で、其くづれ・脇芸とも言ふべきのが、呪師に入つた猿楽で、唯呪師とも言ひ、呪師猿楽とも並称したらしく思はれます。此「呪師猿楽」が、田遊び化して田楽になつたとするのが、
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