見えます。此は、高野博士の観世・金剛などの称号が、菩薩練道の面を蒙る家筋を表したものだ、と言ふ卓見に、微かな裏書きをつける事になるのです。

     七 山姥

猿楽で、山姥が重んぜられるのも、先進芸からの影響もある様ですが、山人としての方面からも考へねばならぬでせう。山姥は、山の神の巫女で、うば[#「うば」に傍線]は姥と感じますが、此は、巫女の職分から言ふ名で、小母と通じるものです。最初は、神を抱き守りする役で、其が、後には、其神の妻ともなるものをいふのです。其巫女の、年高く生きてゐるのが多い事実から、うば[#「うば」に傍線]を老年の女と感じる様になつたらしいのです。うば[#「うば」に傍線]を唯の老媼の義に考へたのも古くからの事だが、神さびた生活をする女性の意として、拡がつて来たのでせう。此山神のうば[#「うば」に傍線]として指定せられた女は、村をはなれた山野に住まねばならなかつた。人身御供の白羽の矢の話には、かうした印象もあるに違ひない。たなばたつめ[#「たなばたつめ」に傍線]同様の生活をして、冬の鎮魂にまた恐らくは、春祭りにも、里に臨んだものと思ふ。其山姥及び山人の出て来る鎮魂
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