浜主の
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翁とてわびやは居らむ。草も 木も 栄ゆる時に、出でゝ舞ひてむ(続日本後紀)
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と詠じた舞は、此交叉時にあつたものと思ひます。翁舞を舞ふ翁の意で、唯の老夫としての自覚ではなさ相です。おきなさぶ[#「おきなさぶ」に傍線]と言ふ語も、をとめさぶ[#「をとめさぶ」に傍線]・神さぶ[#「神さぶ」に傍線]と共に、神事演舞の扮装演出の適合を示すのが、元であつた様です。
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翁さび、人な咎めそ。狩衣、今日ばかりとぞ 鶴《タヅ》も鳴くなる
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と在原の翁の嘆じた、と言ふ歌物語の歌も、翁舞から出た芸謡ではなかつたでせうか。古今集の雑の部にうんざり[#「うんざり」に傍点]する程多い老い人の述懐も、翁舞の詠歌と見られぬ事もない。私など「在原」を称するほかひ人[#「ほかひ人」に傍線]の団体があつて、翁舞を演芸種目の主なものにしてゐたのではないかとさへ思うて居ます。
山姥が山の巫女であつたのを、山の妖怪と考へた様に、翁舞の人物や、演出者を「翁」と称へる様になり、人長《ニンヂヤウ》(舞人の長)の役名ともなり、其表現する
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