五 山びと

常世の国を、山中に想像するやうになつたのは、海岸の民が、山地に移住したからです。元来、山地の前住者の間に、さうした信仰はあつたかも知れませぬ。だが書物によつて見たところでは、海の神の性格職分を、山の神にふり替へた部分が多いのです。
私は山の神人《カミビト》、即|山人《ヤマビト》なるものを、こみ入つた事ながら、説かねばならなくなりました。山守部と山部とは別の部曲です。私は、山部を山人の団体称呼と考へてゐます。其宰領が、山部宿禰なのでせう。ちようど海人部《アマベ》があま[#「あま」に傍線]と言はれるやうに、山部も山《ヤマ》と言はれてゐます。山《ヤマ》[#(ノ)]直《アタヘ》・山[#(ノ)]君などいふのが、其です。海人は、安曇《アヅミ》氏の管轄で、安曇氏は海人部の族長ではない事を主張して居ます。が、山部氏は山人族の主長であるらしいのです。安曇氏の如きも、其ほど海人の血から離れてゐるか、信じられません。山人なる山部が、基本職を忘れて来る様になつて、山部・山守部の混同が起ります。山人とは、どうした部民でせうか。
私の仮説では、山の神に仕へる神人だとするのです。海人部が、海祇《ワタツ
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