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若君は、穴生の里に桃成るな。麻は播《マ》くとも苧《ヲ》になるな。嵐ふくな、と申し置かれしより、花は咲けども桃ならず。麻は播けども苧にならず。
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穴生の里は、後世まで呪はれたのである。
それからきりうが滝[#「きりうが滝」に傍線]へ来ると、桜が散つて、愛護の袂に這入る。見ればまだ、蕾の花である。そこで、落ちた花は已に死んだ母上、咲いて居る花は父上、蕾ながら散るものは、此愛護の身の上であると考へて「恨み言書きたしとて、ゆんでのこゆびくひきり、岩の間《ハザマ》に血を溜め」恨み言を書きとめる。
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かみくらやきりうが滝[#「きりうが滝」に傍線]へ身を投げる。語り伝へよ。松のむら立ち
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とう/\若は、身を投げた。其時十五歳とある(五段目)。
滝のほとりにかゝつてゐる小袖を見つけた山法師等が、山の稚児の身投げと誤解して、中堂へ上つて、太鼓の合図で稚児の人数しらべをする。ところが小袖の紋で、若なる事が訣つた。実否を確める為に、二条へ使が行く。さて父・叔父などが集つてしらべると、下褄に恨み言が発見せられ、其末
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