に「四条河原の細工夫婦が志、たはたの介[#「たはたの介」に傍線]兄弟が情のほど、如何で忘れ申すべき。まんそうくち[#「まんそうくち」に傍線](公事)を許してたべ」とあつた。
そこで、雲井[#(ノ)]前は簀巻にして川に沈め、月小夜は引き廻しの末、いなせが淵[#「いなせが淵」に傍線]に投げ込んだ。かの滝に来て見ると、浮んで居た骸が沈んで見えない。祈りをあげると黒雲が北方に降りて、十六丈の大蛇が、愛護の死骸を背に乗せて現れた。清平が池に入ると、阿闍梨も、弟子共も、皆続いて身を投げる。穴生の姥も後悔して、身を投げる。たはたの介[#「たはたの介」に傍線]・手じろの猿[#「手じろの猿」に傍線]も、すべて空しくなつてしまふ。細工夫婦は、唐崎の松を愛護の形見《カタミ》として、其処から湖水に這入つた。其時死んだ者、上下百八人とある。
大僧正が聞いて、愛護を山王権現と斎うた。四月に申の日が二つあれば後の申、三つあれば中の申の日に、叡山から三千坊、三井寺から三千坊、中下坂本・へいつち[#「へいつち」に傍線](比叡辻か)村をはじめ、二十一个村の氏子たちが、船祭りをする(六段目)と言ふのである。
表紙の題簽に、
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