しがり、柏の葉に粟の飯を分けてあたへた。「其御代より、志は木の葉に包め、と申すなる」と説明してゐる。
情を喜び、苗字を問ふと、弟せんちよ[#「せんちよ」に傍線]が「之はきよすのはん[#「きよすのはん」に傍線]と申すなる」と言ふ。お伴はしたいが、都へ出ねばならぬから、と別れて上つた。扨て其後、
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岩ほの小松をとり持ちて、志賀の峠に植ゑ給ひ、おひ(松に?)せみやう(宣命)を含め給ふ。愛護世に出てめでたくば、枝に枝さき唐崎の千本松と呼ばれよや。愛護空しくなるならば、松も一本《イツポン》葉も一つ、志賀唐崎の一つ松と呼ばれよと、涙と共に穴生《アナホ》の里に出で給ふ。頃は卯月の末つ方、垣根はさもゝ[#「さもゝ」に傍線]の盛となりけるが、若君御覧じて、一つ寵愛なされける。
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処へ、其家の姥が現れて、れいじやの杖[#「れいじやの杖」に傍線]を振り挙げて打たうとした。若は、打たれるのを恥辱に思うて、麻畑に隠れた処が時ならぬ風が吹いて、隠れ処も顕に見えたので「桃のにこう[#「桃のにこう」に傍線]が之を見て、桃をとるだに腹立つに」麻まで蹂み躪つたとて、打擲した。
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