く見える。併し、幣束に似たはた[#「はた」に傍線]が、唐土風な幡旗の陰に、僅かに俤を止めてゐた間に、戦場の桙は、都と交渉少い道のはて/\に竄《かく》れて、武士の世になると共に、又其姿を顕したが、長い韜晦の間に、見かはすばかり変つた姿になつて、其或物は家と縁遠い神々・精霊を竿頭に斎《イハ》ひこめて居なかつたとも限らぬ。
清正の様に、強力無双の人で無ければ、振られ(清正記)ない、大纏が出来てからは、纏持ちの職も出来たのである。
江戸の火消し役は、住宅にまとい[#「まとい」に傍線]を立てゝ、若年寄の配下に三百人扶持をうけたと言ふから、市中出火の折には其まとい[#「まとい」に傍線]を振りたてゝ、日傭人足の指図をしたのである。弓が袋に納つた世の中には、さし物[#「さし物」に傍線]の名目からまとい[#「まとい」に傍線]が忘れられ、三軍を麾いた重器を、火事場へ押し出す様になつたのである。さうして銀箔地へ家々の定紋を書いてばれん[#「ばれん」に傍線]をつけたまとい[#「まとい」に傍線]が、今の白塗りの物となつたのは、寛政三年から後の事で、享保四年大岡越前守等の立案で、町火消六十四組を定めて、一本宛のま
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