あることは知れる。またす[#「またす」に傍線]は、伝宣せしめるので、神の側の事である。神意を伝宣し、具象せしめにやることである。其が広く遣・使などに当る用語例に拡がつた。
だから、第一義のまつり[#「まつり」に傍線]は、呪詞・詔旨を唱誦する儀式であつたことになる。第二義は、神意を具象する為に、呪詞の意を体して奉仕することである。更に転じては、神意の現実化した事を覆奏する義にもなつた。此意義のものが、古いまつり[#「まつり」に傍線]には多かつた。前の方殊に第二は、まつりごと[#「まつりごと」に傍線]と言ふ側になつて来る。其が偏つて行つて、神の食国《ヲスクニ》のまつりごと[#「まつりごと」に傍線]の完全になつた事を言ふ覆奏《マツリ》が盛んになつた。此は神嘗祭りである。
其以下のまつり[#「まつり」に傍線]は、既に説いて了うた。かうして、春まつり[#「春まつり」に傍線]から冬まつり[#「冬まつり」に傍線]が岐れ、冬まつり[#「冬まつり」に傍線]の前提が秋まつり[#「秋まつり」に傍線]を分岐した。更に、陰陽道が神道を習合しきつて後は、冬祓へ[#「冬祓へ」に傍線]より夏祓へ[#「夏祓へ」に傍線]が盛んになり、其から夏まつり[#「夏まつり」に傍線]が発生した。さうして、近代最盛んな夏祭りは、実は、すべての祭りの前提として行はれた祓への、変形に過ぎなかつたのである。
此が、祭りについての大づかみな話である。



底本:「折口信夫全集 2」中央公論社
   1995(平成7)年3月10日初版発行
底本の親本:「古代研究 民俗学篇第一」大岡山書店
   1929(昭和4)年4月10日
※底本の題名の下に書かれている「昭和二年六月頃草稿」は省きました。
※訓点送り仮名は、底本では、本文中に小書き右寄せになっています。
※平仮名のルビは校訂者がつけたものである旨が、底本の凡例に記載されています。
※踊り字(/\、/″\)の誤用は底本の通りとしました。
入力:門田裕志
校正:多羅尾伴内
2004年1月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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