宿禰を必、先、説く相撲は、「腰折れ田」の伝説から見ても、田の水に絡んでゐる。もつと古く溯ると、隼人の俳優《ワザヲギ》・相撲などの起原を説く海幸彦・山幸彦の争ひなどもさうで、水神と地霊との力比べを説く呪詞の、叙事詩化した物から出てゐるのである。水神に相撲の絡んでゐるのは、諏訪と鹿島両明神の力比べもさうであつて、海を越えて来た――天鳥船神が伴うてゐる――神を鹿島とし、地霊を諏訪として、神話化したのである。
河童が相撲を好んで、人を見れば挑みかけるとしてゐる伝承も、基く所は古いのであつて、九州方の角力行事なども、妖怪化した水の侏儒河童を対象にした川祭り[#「川祭り」に傍線]が、大きな助勢をした様である。そして、春祭りに行うた筈のが、五月の田遊びにも、七月の水神祭りにも、処々の勝手で、行ひ改められたのであらう。然るに、大凡、海から来る神の、川を溯つて、村々に臨む時期が、段々、きまつて来た。「夏と秋とゆきあひの早稲のほの/″\と」目につく頃である。
かうして、年一度来る筈の、海の彼方のまれびと神[#「まれびと神」に傍線]が、度々来ねばならなくなり、中元を境にして、年を二つに分けて考へ、七月以後は春夏のくり返しと言ふ風の信仰が出て来た。此は、夏の禊ぎが盛んになつた為でゞもあつた。禊ぎには、まれびと神[#「まれびと神」に傍線]の来臨が伴ふものとしてゐた信仰からは、夏から秋への転化を、新しい年のはじまりと考へないでは居られなかつたのだ。
この時期は、仏家でも、盂蘭盆会を修する時である。歳の果から初春にかけて、海の彼方のまれびと[#「まれびと」に傍線]が出て来、眷属となつてゐる数多の精霊も、其に随うて、村へ集る。村人の成年戒を受けて後死んだ者の魂は、皆、海の彼方の国――常世の国――に行つてゐて、それらが来るのである。で、年を元に戻し、春を齎す呪詞の神の来る行事が、夏の終りにも再、行はれる様になると、常世の精霊たちも、秋のはじめに今一度、人間の村を訪れる事になる。其が、盂蘭盆と一つに考へられると、秋の魂祭りとなる。此中元に来るまれびと[#「まれびと」に傍線]の考へは、海邑から移つた山野の村の勢力の殖えた時代に、既に出てゐた。従つて、海に続いた川を遥かに溯つて来るもの、とせられる様になつた。
海岸に神を迎へた時代にも、地方によつては、此まれびと[#「まれびと」に傍線]の為、一人、村から離
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