て「なよい/\」まで来ると、皆手を拍つて肩を入れて舁き出す。「よいさ/\」は舁きながら言ふことになる。舁きはじめると、又「笠を買ふなら、深江が名所」と謡ふ。此句ぎれ迄来ると、又囃しがはじまる。かうして、繰りかへし/\する中に、かなりの距離を動くのである。
たて棒[#「たて棒」に傍線]は、引き綱で、廻すことが出来る様になつてゐたが、何にしろ非常な重みだから、さう自由にはならなかつた。夜は燈を入れて舁いた。其ゆさ/\と揺れて行く様は、村人の血を湧き立たせたものである。
電信の針金が、引かれてからは、舁いて廻る範囲を狭められたが、其でも祭り毎には、必舁き出した。併し、木津の家並みの処では、許されぬ事になつて、処をはづれた野原などに立てゝ、長さ一町位の広場を往来するだけ位で、辛棒してゐた。
とう/\、松の宮の境内に、絵馬堂を拵へるといふ事で、竪棒を切つて、其柱にしてからは、祭りが来ても、だいがく[#「だいがく」に傍線]は出なくなつた。天幕其他、未練の種になる物はすべて売り払はれて、揃へのゆかた[#「ゆかた」に傍線]の若者どもが、右往左往に入り乱れる喧嘩沙汰も痕を絶つことになつた。



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