、直《ナホ》人から隔離するのがたな[#「たな」に傍線]の原義で、天井からなりと、床上になりと、自由に、たな[#「たな」に傍線]なるものは、作る事が出来た訣である。棚の一つの型をなす「盆棚《ボンダナ》」と称せられるものは、決して、普通の吊り棚でも、雁木《ガンギ》でもない。此は、地上に立てた柱の上に、座を設けたものが、移して座敷のうへにも、作られる様になつたのであつた。
だが、かうしたたな[#「たな」に傍線]の中にも、自然なる分化があつて、地上から隔離する方法によつて、名を異にする様になつた。一つは、盆棚形式のもので、柱を主部とするものである。珠玉の神を御倉板挙《ミクラタナ》(記)といふなどは、倉の棚に、此神を祀つたものと見てゐるが、これは、くらだな[#「くらだな」に傍線]に対する理会が、届かないからである。くらだな[#「くらだな」に傍線]が即《すなはち》倉で、倉の神が玉であり、同時に、天照皇大神の魂のしんぼる[#「しんぼる」に傍線]であり、また米のしんぼる[#「しんぼる」に傍線]として、倉棚に据ゑられたのである。
この倉は、地上に柱を立て、その脚の上に板を挙げて、それに、五穀及びその守護霊を据ゑて、仮り屋根をしておく、といふ程度のものであつたらしく、「神座《クラ》なる棚」の略語、くら[#「くら」に傍線]の義である。時には、その屋根さへもないものがあつて、それを古くから、さずき[#「さずき」に傍線]と言うた。後に、この言葉が分化した為に、而も、さずき[#「さずき」に傍線]その物の脚が高くなつた為に、別名やぐら[#「やぐら」に傍線]と称する称へを生んだ。神霊を斎ひ込める場合には、屋根は要るが、それでなくて、一時的に神を迎へる為ならば、屋根のないのを原則としてゐた。後には、棚にも屋根を設ける様になつたが、古くは、さうではなかつたのである。
だから、やまたのをろち[#「やまたのをろち」に傍線]の条に、八つのさずき[#「さずき」に傍線]を作つて迎へた、といふ事も訣るのである。此が、特殊な意義に用ゐられた棚の場合には、一方崖により、水中などに立てた所謂、かけづくり[#「かけづくり」に傍線]のものであつた。偶然にも、さずき[#「さずき」に傍線]の転音に宛てた字が桟敷と、桟の字を用ゐてゐるのを見ても、さじき[#「さじき」に傍線]或は棚が、かけづくり[#「かけづくり」に傍線]を基とした
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