旅具からついた名だと思はれる。世人は、それを恐れてさう呼んだのであらう。後には、熟練を得て頗る敏捷なものになつたが、当時のは、もつと鈍なものだつたに相違ない。
すり[#「すり」に傍線]は、早くから単独の職業になつたが、すつぱ[#「すつぱ」に傍線]の方は――狂言では田舎人を訛す悪党で、すり[#「すり」に傍線]・すつぱ[#「すつぱ」に傍線]と同じやうに言はれてゐるが――もう少し団体的のもので、親分を持つてゐた。そして更に、一層団体的だつたのが、らつぱ[#「らつぱ」に傍線]である。小六は即らつぱ[#「らつぱ」に傍線]の頭領だつたのである。当時は、かやうなものが幾つとなく、彷ひ歩いてゐた。尚、此外に、がんどう提灯[#「がんどう提灯」に傍線]に名残を止めた、強盗などもあつたのである。

     八 一二の例

押し借り強盗は武士の慣ひとは、後々までも残つた言葉であるが、当時は、実際にさうしたものが、諸民の部落を荒して廻つたので、山伏しも、陰陽師となつて、諸国に神道の祈りをして歩き、一方には、舞踊や唱歌をもした。其に交つた浪人者があり、其間に発達したらつぱ[#「らつぱ」に傍線]・すつぱ[#「すつ
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