お伽草子の一考察
折口信夫
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)此《この》
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室町時代の末に出来たと思はれる職人歌合せの中、勧進聖訓職人歌合せといふのがあつて「絵解き」の姿が画かれてゐる。琵琶を片手に箱を担ひ、地獄極楽の絵を懸けて、それを地搗きの棒の様なもので説明してゐる姿である。三十二番歌合せの第一番に出て来るのも此で、片手では琵琶を弾じ、片手では雉の羽の著いた棒で説明してゐる。「絵をかたり琵琶を弾きて」と註したのを見ても、絵の説明を節付けでした事が訣る。
室町時代の文学は、一体に唱導的なものが多いが、此絵解きも無論、その一つである。其文句は伝はらないが、恐らく、極つた文句を語つたのに違ひない。此が徳川時代になると、熊野勧進比丘尼、――普通歌比丘尼と称せられるものになる。此《この》比丘尼は、紀州の日前《ヒノクマ》宮の信仰と、其に関係が深くて、後には一緒になつて了うた伊勢の大神の信仰とを、弘通して歩いたので、熊野に参籠し、伊勢に参詣して、牛王宝印の札を配る傍、絵解きをしてゐた。歌比丘尼のもとの形が絵解きなのである。絵解きが元となつて勧進聖が現れ、更に変
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