様、「ほさぐ」と言ふ語が出来たのかと思ふのである。だが、不安であるから、尚臆説を並べて見る。「ほす」から「ほし上《ア》ぐ」と言ふ形が出来て、其が融合して「ほさぐ」となつたと見る。語原の意義を忘れて活用も変る例はある。併し「上ぐ」の意識を明らかに持つてゐたとすれば、「ほさぎ(第二変化)」と言ふ形の成立は少し問題である。私は語尾を多くの場合単音節に見たいので、「ほ・さぐ」と言ふ様な形は考へにくいのだが、此方面で考へて見ると、「ほ開《サ》く」とでも語源が説かれさうである。古語では、「さく」の用語例が広いから、かうした意義にも使はれて不思議はない。唯成立上疑問がある。だから、やはり内心は、「ほす」と「ぐ」との複合と見る方に傾いてゐる。いづれにしても、語源は「ほ」を根にして居るには違はぬ様である。「ほさく」と言ふ語が文献の誤りでないとすれば、まだ推測の出来る事がある。九州方面に「ほさ」と言ふ神職又は巫女のあるのは、「ほさく」の意義固定から語根が遊離したものと見られる事である。
泡斎《ハウサイ》念仏と言はれるものも、実は字は宛て字に過ぎないので、江戸期の小唄類の囃し詞に見えるほうさ[#「ほうさ」に傍線]・ほうさい[#「ほうさい」に傍線]などゝ関聯して、「ほさき祭文」のなごりでなからうかと思はれるのである。
猿楽に神聖せられて来た「翁」の、由来不明な「おうさい/\」の句も、唯の囃し詞ではなく、「ほさき/\」と言ふ風な畳語で、呪文の附属文句から変化したのではないかとも考へられる。
底本:「折口信夫全集 4」中央公論社
1995(平成7)年5月10日初版発行
※底本の題名の下には、「草稿」の表記があります。
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2009年10月31日作成
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