ほ」の効果を強めようとして謡うた歌なのである。
「うけひ」が一転すると、「ちかひ」になる。此も語原の知れぬ語である。併し考へて見れば、「とこひ」と言ふ形の語根と tik(=tok)を共通してゐる。うけふ[#「うけふ」に傍線]が後に咀《ノロ》ふの内容を持つて来た様に、此も、音韻の変化と意義分化とが並び行はれて、誓ふと咀《トコ》ふとの相違を生じる事になつたと類推する事が出来さうである。その上、「ちぎる」と言ふ語とも関係がある。ちぎる[#「ちぎる」に傍線]は約束者両人の合意上とる形式的な方法と観られてゐるが、単なる指きり・口固め・語|番《ツガ》への様なものでなく、神を中に立てゝの誓約であつたらしい。後期王朝になつて其用語例が著しく微温化してしまうたが、唯の契約ではない事は察せられる。かうして分化してしまうたが、元は一つであつたに違ひない。
うけひ[#「うけひ」に傍線]は神を試すといふ基礎に立つて、神意の自由発動に任せながら、神の意向を確める事を中心にして、転じて神判など乞ふ場合にも用ゐてゐる。ちかひ[#「ちかひ」に傍線]になると、著しく変つて来る点は、故意に神意の表現を迫る態度を含んでゐる。
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