に関聯して主上万歳の祝福の考へに結びつく事になつて居る。諸氏の氏[#(ノ)]上たる豪族にして神主なる人、下は国造から上は宮廷の権臣として政治に専らな者も、天子の為に生命の呪言を唱へるきまりであつた。夙く簡略になつて、大臣群臣を代表して陳べる事になつたが、かうした呪言の性質上氏々の神主としての資格を以て、其等の人々が皆「よごと」を奏したのである。遂に「賀正事」と言ふ字が「よごと」に宛てられ、正月と言ひ、朝賀と言ふと、「よごと」を聯想する事になり、後代の人には持ちにくい程の内容を含む事になつたのである。
更に推定の歩を進めると、諸豪族の家長の交替する時、其土地を持ち、氏人を持ち、家業を継ぐ事の勅許を受ける為に拝謁して、其家に伝へた寿詞を唱へる形式をとつたのではあるまいか。出雲国造ばかりが神賀詞《カムヨゴト》を唱へに上京したのではあるまい。家々の宮廷に事へた由緒を陳べ其と共に、今の天子の長命を呪して忠勤を示す事、祭政分離の政策が、この風を変改するに到るまで、継続して居たものであらう。出雲国造ばかりは、神主たる資格を失はなかつた為、他の神主を別に立てて祭事とは離れた家々とは違つて、特殊な家風の
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