の出来た風が、文化の進んだ世にも残つてゐたのだ。数多の常世神が、一つの神となつて、神々に仕へた処女を、現神一人が見る事に改まつて来たのである。而も、明らかに大きな現神を戴かなかつた島々・山間では、今に尚俤の窺はれる程、近い昔まで処女の貞操は、まづ常世神に献ずるものとして居たのである。初夜権の存在は、采女制度の時代から現代まで続いてゐると見てよい。「女」になるはじめに、此式を経る事もある。裳着は成女となる儀式である。形式だけだが、宮廷にすら、平安中期まで、之を存してゐた。
神の常任が神主の常任であると共に、巫女も大体に於いて常任せられ、初夜の風習も単なる伝承と化してしまふ。すると、巫女なる処女の貞操は、神或は現神以外の人間に対しては、厳重に戒しめられる事になる。即「人《ヒト》の妻《メ》」と「神の嫁」とは、別殊の人となるのである。かうした風の生じる以前の社会には、常世神の「一夜配偶《ヒトヨヅマ》」の風が行はれてゐたものと思ふ事が出来る。其一人数人の長老・君主に集中したものが、初夜権なのである。
常世神が来り臨む事、一年唯一度と言ふ風を守られなくなつた。一村或は一家の事情が、複雑になつて特殊
前へ
次へ
全34ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング