」は太字]
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今朝の嵐は、嵐では無《ナ》げに候《ス》よの。大堰《オホヰ》川の川の瀬の音ぢやげに候《ス》よなう。(閑吟集)
水がこほるやらむ。みなと川が細り候《ス》よの。我らも独り寝に、身が細り候《ス》よの。(同じく)
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方言に消長はありながら亡びきらないで、時を得て興つて来る――思想が気分化して、極めて低度に意識下に残つてゐる例と言ふべきか、或は長年月の間、凡変化なく保たれてゐる例か、語感は相当に変りながら、文法的組織は大して変らずに持ちこたへて、年月を経るのか、さう言ふことが、もつとはつきりせぬ以上は、何の疑問もなく、「行きす」「思ひす」「とりす」など言ふ江戸遊廓方言にまで、「ゆきすかい」「ゆくさかい」「ゆくしけ」が、直接に続いてゐたもの、と単純に考へることは、躊躇した方が安全である。だが、さうばかりおつかなびつくり[#「おつかなびつくり」に傍線]でゐることは、学問の流れの細ることである。形は、「細ります」「細つてゐます」の細りす[#「細りす」に傍線]であるが、まだ/\「細り候」の語原意識は失はれてゐないのである。「なげにす」など言ふ、形
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