ぎ去つて行つた土地が多い。が対話敬語として、感じるといふ側から詞の地を柔げるものとなつて、次第に融けこんで行つた地方もあるのは、考へておかねばならぬ。
居残る標準語[#「居残る標準語」は太字]
大阪を中心とした「さかい」「さかいに」「さかいで」の過去と現在に渉つて感ぜられることは、敬語系統の語感の上で言へば、実際のところ、自分の語に品よく、甘美な感情を持たせようとしてゐるやうに見えることである。此は本来の目的にそぐはない結果だらうが、さうした所にも、この語の、わりこんだ理由の察せられるものは残つてゐる。地方文化が、可なりの高さを持つことをほのめかさうとしてゐる。さう言ふ感覚が、語感の上に行きわたつてゐるのを、我々は地方々々の方言の底に感じる。
「……すかい」が、東北へ向つて進んで行かぬ前に、上方の「すかい」は、恐らく既に「すかい」から転身して、「さかい」と言ふ音韻形をとつてゐたものであらう。極めて古い古典語に似た形が、思ひがけない地方の文献以外に、方言として残つて居ることのあればこそ、昔から、方言の存在が、古典的な意味を持つて、学者の注意を引いたのである。
我々の信頼してゐる文献上の
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