敬語と全然別なものとは考へず、両方一つにして気分を混淆させてゐたこともあつた。唯実際使ふ時に、生得の敏感から、この二種をはつきり[#「はつきり」に傍点]感じわけて居た。とは言へ、一旦此がこみ入つて来た場合は、混乱させない訣にはいかなかつた。これも狂言に、その例が多い。尤、実際の対話には、この類は、数限りもない訣であつた。
 すかい[#「すかい」は太字] すけん[#「すけん」は太字]
敬語「す」は、敬語の古格によることが多く、敬語的発想を保つ地方の多い九州では、まだ失はれないでゐるものが沢山ある。たとへば、他の地方で、「行きなさるから」「お行きだから」「行かつしやるから」など、色々な言ひ方をする場合にも、「行かすけに」「行かすけん」と言ふのを聞くと、実際耳の洗はれた感じがする。
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あしたから隊長さんにならすけん……  小説「散歩者」
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これは、熊本山鹿地方の例であるが、九州は大体これで通じるやうである。作者木村祐章は、山鹿町の人で、山鹿であつたことのやうに書いた作品に「けん」「すけん」「すけんで[#「で」に白丸傍点]」の類、幾十の使用例がある
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