て、語の方が柔らいで用ゐられて来てゐる。其だけ実際用語としては、よほど上品で温柔な感覚を含んで来てゐるものと言つてよい。実際には、さうした高い標準語らしいものを使はぬ階級の人々の間で、やりとりせられてゐるのである。狂言における虚構標準語と言へる。だから末々、「しめ」系統の語は、狂言詞として孤立して、各地方方言の上にも、多くは残らなくなつたのだらう。
狂言詞にも、色々な分類が行はれると思ふが、普通なのり[#「なのり」に傍点]から初めて、対話などに使つてゐる「候」を中心にしたもの言ひ[#「もの言ひ」に傍点]は、狂言としての舞台用語――戯曲語で、ひらき直つた言ひ方の語である。言はゞ武家辞宜の口状で、祝儀・不祝儀の――それも非常にあらたまつた時に使ふ切り口状である。奏者・使者等から出た口状の類の物言ひが舞台語としての慣用から、実際日常用語のやうに思はれて来た。
無頼語[#「無頼語」は太字]
其故、対話がくだけて来ると、候詞が少くなつて来る。動作や表情が中心になつて戯曲よりも劇らしい感情が出て来ると、詞が自由になる。喧嘩・口論・常の応対などにかゝると、狂言詞は生き/\と精彩を発揮する。この部分
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