[#「いきんす」に傍線]・みんす[#「みんす」に傍線]の例を、こゝでは、問題にせねばならぬ。
此「す」は明らかに敬礼語――丁寧語即、対話敬語のす[#「す」に傍点]である。其で、もつと原形に近い「行《イ》きいす」「見いす」「為《シ》いす」「……知りいせん」「取りいせん」など言ふ形が、はつきり使はれてゐたのは、語原意識が明確で、「為《シ》ない」「見ない」などと対照になる、「行きいす」「見いす」「行きいせん」「見いせん」と言つた、丁寧語の意識を心に保ちながら、言つてゐる事が訣る。かうしたところに、江戸住民の言語反省が強く深いことゝ共に、生活の上に言語慰楽の追求となつて現れてゐたことが見られる。
乞ひうけ[#「乞ひうけ」は太字] 命令[#「命令」は太字]
さう言ふ点で、同様に対話時の敬語に敏感を示してゐるのは、時代は大体に、之より古くなる所の狂言詞である。特に軽命令――言ひ替へれば、「乞ひ請け」の形、「聞かしめ」「いやならば措《オ》かしめ」「見せてくれさしめ」「心得さしめ」などの類に、其が見られる。「……しておくれよ」と言ふ程度まで、その意義と、用語例の間にひらき[#「ひらき」に傍点]が出来
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