見た。所謂「ざあます」語である。「ござあます」から転じたのである。此方はあくせんと[#「あくせんと」に傍線]を「ざ」において、強調する所から起つたものらしい。
この類の遊廓語の中、敬語・丁寧語の一部をあげたのだが、固有名詞その他の単語の上にも、又種々の異風が行はれてゐた。だが今は其に触れない。
こゝに問題となるのは、「行かんす」と「行きんす」とで、殊に「さかい」の場合には、後者が多くの暗示を見せてゐる。「行かんす」の類の「す」は、先に述べた古くからの敬語々尾に似たもので、或は時代的の傾向としては、「行かァす」「思はァす」の如き特殊な音韻が加つて来てゐるものと見るべきであらうか。行かんす古形説を一往避けたが、たとへば、「行かさす」(敬)、「思はさす」(敬)が拗撥音表情を加へて「行かしやんす」「思はしやんす」と発音する様になつた所に、活用長期残存とも言ふべき、語法の時代色が伺はれる様である。
唯これは何処までも、敬語として所謂将然形系統の特殊相を、後世になつても、保持したものと言ふことが出来る。
今は別に、「行かんす」「思はんす」と殆同一の構造に見えるやうに出来て居乍ら、意義の違ふいきんす
前へ 次へ
全46ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング