江戸において見ても、吉原語同様のものは、其以外の遊廓にも用ゐられ、岡場所など言はれる私娼街でも、似たりよつたりの特殊語は発育してゐた。洒落本やある種の黄表紙は、ある点から言へば、さう言ふ語の駆使を誇つてゐるやうにさへ見える。此等は恐らく、小遊廓の生活に、自然異同が生じて来る上に、吉原語の普遍的なものを、移植した所から来たものであらう。その一例、
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なんす(なんし=軽命令形)――なます……敬語
ざます(ざあます)……対話敬語
……ansu(思はんす・行かんすの類)……敬語
……insu(いきんす・見《ミ》んす・為《シ》んす)……対話敬語
……insen(いきんせん)……否定
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右の中、なんす[#「なんす」に傍線]は、なさんす[#「なさんす」に傍線]の略形、恐らく、なはんす[#「なはんす」に傍線]を経過したものだらう。
……すの類の ansu は、右の里語以外にも広く行はれた「通常安易敬語」で、古代から中世を経て来た「行かす」「思はす」の、方言化して行はれてゐたものらしく見えるが、此は断言する訣にはゆかぬ。おなじ筋の行かつす[#「行かつす」に
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