久しいものである。
閑吟集の小唄・狂言小唄並びに、散文としては、狂言の中に現れて来る対話上の候の変容。此は、相当考へて見るねうち[#「ねうち」に傍点]がある。
小唄類に、「……す」「……すよ」「……すよの」があり、之に並行して「……そよ」「……そよの」が出て来る。言ふまでもなく、「候《サフロ》」から来た「そ[#「そ」に白丸傍点]よ」「候《ソウ》[#「候《ソウ》」に白丸傍点]よ」であること疑ひもないのだが、小唄・狂言には、大抵の場合、「然《ソ》よ」「然《サ》うよ」「然《サ》うよの」と言ふ風に、誰も解釈して来たらしい。かう感受する事の方が、当時の人にも快かつたのだらう。「さぶらふ」には、発音の近い二つの語がある。候の外に「三郎」と言ふ固有名詞系統のがある。此は、性質は違ひ乍ら、様式の上ばかりでは、並行を続けてゐる。さぶろ[#「さぶろ」に傍線]>さう[#「さう」に傍線]>そお[#「そお」に傍線]と言ふ風に、人の名と、候が全くおなじ筋を行くのもおもしろい。
室町文献と思はれるものに、「そろ」「そう」の方が、「す」「すよ」より数の多いのは、其方が標準語に近いと言ふ感じを残して居た為に、歌謡・狂言
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