二人は偶然に泊まり合わせたように装っていたが、どうやら同行であるらしく、それも主従の間柄で、老女はお高祖頭巾をかぶった女の召使のように感じられたと言う。
 君子が祖母からこの二人の遍路の話を聞くときは、それが父の殺された当夜の物語であるだけに子供心にも、なにか恐ろしい怪談でも聞かされるように、薄気味わるく身を縮めたものである。今では記憶も薄らいで生々しい感じではないが、この二人の姿が、ふと心に浮かんでくると、父の臨終、白髪の老女、お高祖頭巾の尼遍路なぞ、まるで地獄の絵図でも見るような気がする。
 それだけにこの幻像はしばしば、もっとも多く君子の心に浮かんでくるのである。
 二人の遍路が泊まった日の四、五日前から君子の母は高い熱を出して床についていた。首すじにぐりぐりができて、高い熱のために苦しみとおした。だから、こうした二人の女遍路が泊まっていることなぞ知るはずがなかった。医者のある町までは二里もある田舎であったし、また、村では、みなたいていの病気では医者なぞ迎えるものがなかった。君子の父は自分が四国遍路のときに携えたありがたいものだという杖を持ち出して寝ている病人の頭を撫でたり、呪《
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