づいている道と同じような道が森の奥の方に消えている。君子はなんだか気味が悪くなって、再び門の外までひき返し、ベソをかきながら塀《へい》に沿うて屋敷の周囲を廻ってみたが、周囲の小門はかたく閉されてあったし、右に廻っても左に廻っても塀のつきるところは池になっていた。陽はだんだん西に傾く。風は冷たいし、君子はついに泣きながら再び門をはいって行った。
 ところどころに石の灯籠《とうろう》があったり、池につづいているような小川に石の橋がかかっていたり、構えのなかはまるでお宮さんのようであった。長い塀がつづいて、納屋《なや》のような建物の天井に龍吐水《りゅうどすい》の箱や火事場用の手桶なぞがつってあった。お宮さんの社務所のような大きな玄関、その横の天井には、芝居の殿様が乗ってくるような駕籠《かご》がつってあった。君子は勝手口らしい入口の大きな戸を泣きながら身体で開けた。家のなかは人がいるのかいないのか、シンと静まり返ってしわぶきの音一つしない静かさだった。君子はなおもすすりあげながら、そこに立っていたが、誰も出てくる様子がないので、そっと中をのぞいて見た。そこには人の影はなく、ぴかぴかと黒光りのす
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