ジッと瞶《みつ》めた。ガラスを透してながめる美しい水、それが閑枝の心にヒンヤリと刃物に似た冷たさを思わせるのであった。
自殺! と云うことが、フト閑枝の心に浮んだ。この薬が毒薬だったら……、こう思うと、血を吐いて苦しんでいる自分の姿が幻覚となって自分の目に見えるのであった。
閑枝はフト立上った。それは閑枝の心に、黒い湖水が一ぱいに拡がり、芦の葉ずれの音や、ニブい櫓声が聞えてきたからである。自殺、自殺、と、閑枝は唄うように呟いた。机の前に座り直すと、ペンを執った。遺書を書くためである。
書いて了《しま》って、それを封筒に納めると、なにか大きな仕事を、なし終ったときのような疲労を感じた。
それから二通の手紙を手に執って見た。
その一通は継母《はは》からのものであったが、他の一通は真白な横封筒で、差出人の名は書いてなく、その筆跡にも見覚えはなかった。
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私は、あなたに手紙を差上げることを、どれほど躊躇したか知れませぬ。手紙を差上げると云うことは、私と云うものを、あなたの目の前に現わすことに等しいことですから………しかし私にはこの心のよろこびを、ただ一人でジ
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