むるには別にその土泥を容るべき大湖を穿たざるべからざるに気づかず、利獲のみ念じ過ぎて神林を亡《うしな》えば、これ田地に大有害の虫※[#「※」は「くさかんむり+巛(まがりかわ)+田」、529−14]《ちゅうさい》を招致する所以《ゆえん》なるを思わず、非義|饕餮《とうてつ》の神職より口先ばかりの陳腐な説教を無理に聞かせて、その聴衆がこれを聞かぬうちから、はや彼輩の非義我慾に感染すべきを想わざるは無念至極なり。この神職輩の年に一度という講習大会の様子を見るに、[#以下、この段落の数字付き()は一字扱いである。](1)素盞嗚尊《すさのおのみこと》と月読尊《つきよみのみこと》とは同神か異神か、(2)高天の原は何方《いずかた》にありや、(3)持統天皇、春過ぎての歌の真意|如何《いかん》など、呆れ返ったことを問いに県属が来るに、よい加減な返事を一、二人の先達がするを、十余人が黙して聞きおるなり。米の安からぬ世に、さりとは無用の人のために冗職を設けることと驚き入るばかりなり。かかる人物は、当分史蹟天然物保存会の番人として神社を守らしめ、追い追いその人を撰み、その俸給を増さんことこそ願わるれ。世に喧伝す
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