従前と変わりしこともなければ、氏子また策を運らし、俸給を定規より少なく神職に与え、ないよりは増しだろう、ぐずぐず言わば合祀するぞ、と今度は氏子より神職を脅し、実際は割引で与えながら規定の俸給を受けおるような受取証を書かすこと。熊楠いわく、むかしより伊勢人は偽り多しと言うので、仮作の小説たるを明示するため『伊勢ィ語』と言う書題を設けたと申す。まことに本家だけあって、三重県の御方々《おんかたがた》には格別の智恵がある、和歌山県に行なわるる合祀の弊害はことごとく生川氏の指摘せるところに異ならぬが、神職の俸給を割引して受取書を偽造させるようなものは、いまだ和歌山県に聞き及ばず。しかし、追い追いは出で来るならん。生川氏、結論にいわく、右のごときはただ埒明的《らちあきてき》合祀にて、神社の整理か縮少か将《はた》破壊か、かかる神社と神職とに地方自治の中枢たらんことを望むは間違いもはなはだし、これを神道全体の衰頽と言うべしと断ぜられたるは、まことに末《すえ》を見透せし明ありと嘆息の外なし。
かくて三重県に続いて和歌山県に合祀の励行始まり、何とも看過しがたきもの多きより、熊楠諸有志と合祀反対の陣を張り
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