県に、全国最多数の大逆徒と、無類最多数の官公吏犯罪(昨年春までに二十二人)を出し、また肝心の神職中より那智山事件ごとき破廉恥の神官を出せるにて知るべし。また近年まで外国人口を揃えて、日本人は一種欧米人に見得ざる謹慎優雅の風あり、といえり。封建の世に圧制され、鎖国で閑《ひま》多かりしゆえにもあるべけれど、要は到る処神社古くより存立し、斎忌《ものいみ》の制厳重にして、幼少より崇神の念を頭から足の先まで浸潤せることもっともその力多かりしなり。(このことは、明治三十年夏、ブリストル開会の英国科学奨励会人類学部発表の日、部長の演説に次いで、熊楠、「日本斎忌考」《ゼ・タブー・システム・イン・ジャパン》[#前述の振りがなは論文題名の英訳と思われるが、底本では振りがなとして処理している。以下の同例も《》付きの振りがなとして記しておく。]と題し、読みたり。)
 神社の人民に及ぼす感化力は、これを述べんとするに言語杜絶す。いわゆる「何事のおはしますかを知らねども有難さにぞ涙こぼるる」ものなり。似而非《えせ》神職の説教などに待つことにあらず。神道は宗教に違いなきも、言論理窟で人を説き伏せる教えにあらず。本居
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