し。北欧州やアジアのヒマラヤ以北に住み北欧のものは長《たけ》十五インチ尾三インチ、常の鼠より大きい。地中に込み入った巣を穿ち特に穀倉を造り、秋末に穀豆をその頬に押し込んで多量に貯え、その中に眠って極寒時を過し、二、三月になると寤《さ》めて居食いする。一疋で穀六十ポンド、また豆ハンドレッド・エートを蓄うるものありとは仰山《ぎょうさん》な。しかしこの事を心得た百姓は、その巣を掘って穀を過分に得、またその肉を常翫するから満更《まんざら》丸損《まるそん》にならぬ。これと別属ながら、同じ暮し方の鼠がアフリカにも西半球にもある。諸方で鼠が神や人に食物を与えた譚あるはこれに基づくか。支那にも一種全身鼠色で、尾やや長く欧州産の腹黒く尾短きに異なるハムステルあり。豆を好み穴倉に貯えるから豆鼠児、倉鼠児、倉官児、弁倉児など呼ばる(『皇立|亜細亜《アジア》協会北支那部雑誌』二輯十一巻五九頁)、天復中隴右の米作大豊年で、刈ろうと思う内、稲穂が大半なくなり大饑饉|出来《しゅったい》した。その時田畔の鼠穴を掘ると夥しく稲を蔵《かく》しあった。そこで人々鼠穴を窮め、五、七|斛《ごく》を獲る者あり、相伝えてこれを劫鼠
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