娥父の方へ帰ってその由を話すと、伯父が感心して三十両を工面して月娥に渡し、月娥夫の家に帰って房中でその銀を数え、厨内に収め、さて飯を炊《かし》ぎに掛った。隣家の焦黒てふ者壁間より覗《うかが》い知って、門より入り来りその銀を偸《ぬす》むを、月娥はその夫帰ってわが房に入ったと思いいた。頃刻《しばらく》して夫帰り、午飯を吃《きっ》した後、妻が夫を悦ばしょうと自室に入り見るに銀なし。どこへ持って行ったかと問うに夫は何の事か分らず、銀を取った覚えなしという。妻は夫がわが伯父が調達しくれた金でほかの女を妻に取る支度と心得、怒って縊死《いし》するところを近所の人々に救わる。その後焦黒雷に打たれて死し、腰に盗んだ銀包みがあったので事実が判った。衛思賢、可立夫婦の孝貞に感じ、三百金を可立に与え、自分が孕《はら》ませた子を成長後自分亡妻の子として引き取る約束で、可立の母房氏を可立方へ帰したとは、よく義理の分った人だ。
 かく鼠はよく物を盗む故、その巣から人に必要な物件を見出す事少なからず。前にもちょっと述べた通りハムステルてふ鼠は頬に大きな嚢ありて食物を猴《さる》の頬のように詰め込み得、常の鼠と異なり尾短
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