、今按ずるに年の始めには万事祝詞を述べ侍《はべ》る物にしあれば、寝起きといえる詞《ことば》を忌み憚《はばか》りてイネツム、イネアクルなど唱《とな》うる類あまたあり。鼠も寝のひびき侍れば、嫁が君と呼ぶにてやあらんといえり。この名あるより鼠の嫁入りという諺は出で来しなるべし。また鼠を夜の物、狐を夜の殿という、似たる名なり。思うに狐の嫁入りは鼠の後なるべし」と記す。『抱朴子《ほうぼくし》』内篇四に、山中|寅日《とらのひ》、自ら虞吏と称するは虎、当路者と称するは狼、卯日《うのひ》丈人と称するは兎、西王母と称するは鹿、子の日社君と称するは鼠、神人と称するは蝙蝠《こうもり》など多く例を挙げ、いずれもその物の名を知った人を害し能わずとある。これは十二支の異なる日ごとに、当日の十二禽の属たる三十六禽が化けに化けて自ら種々の名を称え行く偽号だ。これに反しスウェーデンで牧女どもの言い伝えに、昔畜生皆言語した時、狼が「吾輩を狼と呼ぶな仇するぞ、汝の宝と呼べば仇せじ」と説いたとかで、今にその実名を呼ばず、黙った者、鼠色の足、金歯など唱え、熊を老人、祖父、十二人力、金足などと称う。また受苦週(耶蘇《ヤソ》復活祭
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