金沢辺の甚三郎という商人、貧しくなり、大黒天を勧請《かんじょう》して、甲子の日ごとに懇《ねんごろ》にこれを祀る。ある時また、甲子に当りて例のごとく燈掲げて一心に祈念するに、何処《いずこ》ともなく大きな白鼠|忽然《こつぜん》と出でて供物を食う。亭主これを見て大いに悦び、翌日友人を招きこの事を語り酒宴する。友達その白鼠は名のみ聞いて見た事なし、かつは物語の種なれば今宵祈って一目見せたまえというに、亭主|諾《うべな》い、その夜また燈を掲げ、各集り居るに案のごとく白鼠出で来る。人々見るよりアッといいて立ち騒ぐに驚き、この鼠逃げ帰るを見れば常の黒鼠となって去る。人々怪しみその跡を見るにうどんの粉多し。その通《かよ》うた壁の穴を求むると、隣りに饂飩《うどん》を商う家あり、その饂飩の粉の中に鼠棲んでこの家へ来る故白鼠と見えたと判り、皆々大笑いして帰った。亭主物うき事に思い歎くと、大黒天その夢に現じて、宵の鼠のうどん粉に塗《まみ》れ出でたるも、汝に富貴の道を教ゆべき方便であった。その鼠の通った跡を見るべしと教えられ、夜明けて見れば饂飩粉の上に鼠の足跡文字を顕わす、これを読むに「祈ればぞかかる例しに大麦
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