五色鼠は白鼠を染めたる物なりといい、『香祖筆記』七に、鳥獣毛羽の奇なる物とて黄鳥、花馬、朱毛虎、山水豹とともに朱沙鼠を挙げ、タヴェルニエーの『印度紀行』一巻八章(ホール英訳)の注に、インドで犀《さい》を闘わすにその毛を諸色で彩った、今も象をさようにするとあり。惟うに麒麟や鳳凰、それから獅子を五采|燦爛《さんらん》たるように和漢とも絵《えが》くは、最初外国から似寄った動物を染め飾り持ち来ったのに欺かれ、瑞兆として高く買ったでなかろうか。日本でも上杉家の勇将|新発田《しばた》因幡守治長は、染月毛てふ名馬の、尾至って白きを、茜《あかね》の汁で年来染むると、真紅の糸を乱し掛けたごとし。景勝の代に叛《そむ》いて三年籠城して討ち死にの時もこの馬に乗ったという(『常山紀談』)。昨年予の方へ紺紫色の雀極めておとなしきを持ち来った人あり。いかにも瑞鳥でわが徳を感じて天が祥瑞を下したと悦び、餌を与うるも食わず、吐息ついて死んだから吟味すると、何か法螺《ほら》を吹き損わせて笑いやらんと巧んで、白髪染剤で常の雀を染めその毒に中《あた》っておとなしく沈みいたと判った。
 元禄五年板、洛下俳林子作『新百物語』二に
前へ 次へ
全81ページ中56ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
南方 熊楠 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング