走り大黒くらいに痕跡を留め、後には専らこれを愛し使うよう思わるるに及んだのだ。『淇園《きえん》一筆』に、大内《おおうち》で甲子祭《きのえねまつり》の夜|紫宸殿《ししんでん》の大黒柱に供物を祭り、箏《こと》一張で四辻殿林歌の曲を奏す。これ本より大極殿の楽なり、この曲を舞う時、舞人甲に鼠の形をつけ、上の装束も色糸で幾つも鼠を縫い付くるとある。これも大黒に縁ある甲子の祭りにその使い物の鼠を愛し翫《あそ》ぶようだが、本は鼠が大黒柱を始め建築諸部を損ぜぬよう、鼠を捉うるまねしてこれを厭勝《ようしょう》したのであろう。
今日ボンベイ辺の下等民は鼠を鼠叔父と呼び、鼠と呼ぶを不吉とす。これは本邦で鼠を正月三ヶ日はヨメとのみ言った同然|忌詞《いみことば》だが、真に叔父死して鼠となると思う者もあるらしい(クルック、二四二頁)。ドイツの俗信に死人の魂は鼠となる、家の主人死すれば家内の鼠までも出で去るという。サルマチア王ポペルス二世その伯叔父を暗殺し、屍骸を川に投げ込むと鼠となって王夫婦を殺した(グベルナチス、二巻六七頁)。ポーランド王ポピエル悪虐|度《ど》に過ぎしを諫《いさ》めた者あり。王病と詐《いつわ》
前へ
次へ
全81ページ中49ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
南方 熊楠 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング