談』二一には、大黒天神は厨家豊穣の神なるが故に、世人鼠の来って家厨の飲食倉庫の器用を損ずるをこの神に祈る時、十月の亥の日を例として子《ね》の月なる十一月の子《ね》の日を(祭りに)用ゆるなるべしと記す。『梅津長者物語』には鼠三郎、野らねの藤太等の賊が長者の宅を襲うと、大黒真先に打って出で打ち出の小槌《こづち》で賊魁《ぞくかい》を打ち殺す事あり。これでは大黒時に鼠や賊を制止|誅戮《ちゅうりく》し、槌は殺伐の具となって居る。
 槌はいかにも大黒の附き物で、繁昌をこの神に祈って鼠屋また槌屋と家号したのがある。京で名高い柄糸《つかいと》を売る鼠屋に紛らわして栗鼠《りす》屋と名乗る店が出た事あり(宝永六年板『子孫大黒柱』四)。伊勢の御笥作り内人《うちんど》土屋氏は昔槌屋と称え、豪富なりしを悪《にく》み数十人囲み壊《やぶ》りに掛かりかえって敗北した時、荒木田守武《あらきだもりたけ》の狂歌に「宇治武者は千人ありとも炮烙《ほうろく》の槌一つにはかなはざりけり」、蛆虫《うじむし》を宇治武者にいい做《な》したのだ(石崎文雅『郷談』)。それから娼家には殊に槌屋の家号多く、例せば宝永七年板『御入部伽羅女《ごにゅ
前へ 次へ
全81ページ中34ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
南方 熊楠 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング