出す御影なりと記す。一昨年某大臣、孟子がいわゆる大王色を好んで百姓とともにせんとの仁心より頼まれた惚れ薬の原料を採りに中禅寺湖へ往った時、篤《とく》とこの大黒を拝もうと心掛けて滞在して米屋旅館に、岩田梅とて芳紀二十三歳の丸ぼちゃクルクル猫目《ねこめ》の仲居頭あり。嬋娟《せんけん》たる花の顔《かん》ばせ、耳の穴をくじりて一笑すれば天井から鼠が落ち、鬢《びん》のほつれを掻き立てて枕《まくら》のとがを憾《うら》めば二階から人が落ちる。南方先生その何やらのふちから溢《あふ》るるばかりの大|愛敬《あいきょう》に鼠色の涎《よだれ》を垂らして、生処を尋ねると、足尾の的尾の料理屋の娘というから十分素養もあるだろう、どうか一緒に走り大黒、身は桑門《そうもん》となるまでも生身《なまみ》の大黒天と崇め奉らんと企つる内、唐穴《からっけつ》になって下山しとうとう走り大黒を拝まなんだ。全く惚れ薬取りが惚れ薬に中毒したのだ。その節集古会員上松蓊君も同行したから彼女の尤物《ゆうぶつ》たる事は同君が保証する、あの辺へ往ったら尋ねやってくれたまえ。
右の『譚海』の文に拠れば鼠が神になって大黒天と現じたようだが、『滑稽雑
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