を合せて作る。大豆、小豆、大角豆《ささげ》、胡麻、栗、柿、あめなりとあって、柿も七種の粉の仲間入りをしているが、件《くだん》の歌に特に柿を上げますというのは、猪は格段に柿を好むにや。果してしからば偶合かも知れないが、猪と柿と両《ふた》つながら蛇毒を制すと信ぜられたは面白い。
『大和本草』附録下に、野猪の脂は、婦人をして乳多からしめ、疥癬を治す。プリニウスの『博物志』二八巻三七章にも豕脂が疥癬に効あるを述べ、また新鮮なる豕の脂を陰膣に込んで置くと、子宮中の児に滋養分を給し流産を禦《ふせ》ぐと載す。乳を多くしたり流産を防ぐなど婦女に大効あるらしい。グベルナチスの『動物譚原』にいわく、豕はもっとも好婬な動物の一だからピタゴラスは多婬家は豕に生まれ換わるといい、婬蕩人を豕と呼ぶ。ヴァロ説に、昔エトルリアの王や貴人は新婚に豕を牲した。それから精力強い女を豕と呼ぶと。これを読んで、さほど精力強い豕を食ったら定めて精力強くなる理窟で、豕をシシと呼んだ事は上に述べた通り、それからむやみに子を孕《はら》んで困るをシシ食うた報いというたに相違ないと、独りよがりをやらしていたところ、『嬉遊笑覧』を読んで自説
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