穴から這い出て多く僧衆を聚《あつ》め、更に紅海際の山中に隠れ四世紀の中頃|遷化《せんげ》した。その苦行を始めた当座はあたかも、悉達《しった》太子出家して苦行六年に近く畢鉢羅《ひっぱら》樹下《じゅげ》に坐して正覚《しょうがく》を期した時、波旬《はじゅん》の三女、可愛、可嬉、喜見の輩が嬌姿荘厳し来って、何故心を守って我を観《み》ざる、ヤイノヤイノと口説き立てても聴かざれば、悪魔手を替え八十億の鬼衆を率い現じて、汝急に去らずんば我汝を海中に擲《なげう》たんと脅かしたごとく、サタン魔王|何卒《なにとぞ》アントニウスの出家を留めんと雑多の誘惑と威嚇を加えた。すなわちまず海棠《かいどう》を羞殺《しゅうさい》して牡丹を遯世《とんせい》せしむる的の美婦と現じて、しみじみと親たちは木の胯《また》から君を産みたりやと質問したり、「女は嫌いと口にはいうて、こうもやつれるものかいな」などと繰りたり、私だってイじゃありませんかと、手で捜りに来たり、誘惑の限りを尽すも少しも動ぜぬから、今度はいよいよ化け物類の出勤時間、草木も眠る真夜中に、彼ら総出で何とも知れぬ大声で噪《さわ》ぎ立て、獅・豹・熊・牛・蝮蛇《まむし》
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