・蠍《さそり》・狼の諸形を現じて尊者の身が切れ切れになるまでさいなんだが、本人はロハで動物園を拝見したつもりで笑うて居るから埒《らち》が明かず。時に洞窟の上開いて霊光射下り諸鬼皆|※[#「やまいだれ+音」、第3水準1−88−52]《おし》となり、尊者の創《きず》ことごとく愈《い》えて洞天また閉じ合うたという。この時サタンが尊者を誘惑|擾乱《じょうらん》に力《つと》めたところが欧州名工の画題の最も高名な一つで、サルワトル・ロザ以下その考案に脳力を腎虚させた。
それからまた奇談といわば、アントニウス尊者|荒寥地《こうりょうち》に独棲苦行神を驚かすばかりなる間、一日天に声ありてアントニウスよ汝の行いはアレキサンドリヤの一|履《くつ》繕い師に及ばずと言う。尊者聞いてすなわち起《た》ち、杖に縋《すが》って彼所に往きその履工を訪うと、履工かかる聖人の光臨に逢うて誠に痛み入った。爾時《そのとき》尊者|面《おもて》を和らげ近く寄って、われに汝の暮し様を語れという。履工これは畏れ入ります、もとより手と足ばかりの貧乏人故何たる善根も施し得ませぬ。ただし朝起きるごとに自分の住み居る市内一同のため、分けては
前へ
次へ
全90ページ中45ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
南方 熊楠 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング