わち持斎す。非時に食を与うれども食わず、ただ浄水を得飲まんと欲するのみ。後日斎を解くに至り、粥《かゆ》を与えて始めて喫す。かつ寺内先に数猛狗あり、ただ一の很狗《こんく》を見るも競うて大いに吠え囓まざるなし。もしこの狗寺に入るを見ればことごとく住《とど》まり低頭|掉尾《ちょうび》すとある。タヴェルニエー等の紀行に、回教徒の厳峻な輩は、馬にさえ宗制通りの断食を※[#「厂+萬」、第3水準1−14−84]行《れいこう》する趣が見える。習い性となる、で、件《くだん》の犬も、持斎すべく育てられたのであろう。
サウシーの『コンモン・プレイス・ブック』四輯に、コングリーヴの一犬ペンクリッジ寺の修繕一年に竟《わた》り誰も詣でざるに、日曜ごとに独り欠かさず詣でたと載す。またその二輯に、メソジスト派起りてほどもなく、ブリストル辺でその教会に詣る者しばしば一犬遠くより来会するを見た。その家人は、メソジスト派に無関心だったから犬独り来った。当時安息日に、国教寺院の勤行《ごんぎょう》終ると直ぐこの派の説教始まり、その都度欠かさずこの犬が来たからメソジスト犬と称えられた。来会の途で、ちょうど寺院から帰る子供に逢う
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