編|御伽草子《おとぎぞうし》』の発端に出おり今は珍しからぬ物だが、京伝、馬琴の時には流布《るふ》少なかったと見える。これは福富の織部《おりべ》なる者面白く屁《へ》をひる事に長じ、貴人面前にその芸を演じ賞賜多くて長者となる。隣人藤太これを羨み、長者より薬を貰い、今出川中将夫妻らに謁して芸を演じ損じ不浄を瀉《しゃ》し、随身に打たれ血に塗れて敗亡した始末を述べたものだ。この話の根本らしいのが仏経にある。
『雑宝蔵経』八にいわく、昔波羅奈国の梵誉王、常に夜半に塚間に咄王咄王と喚《よ》ぶを聞く、よく聞くと一夜に三度ずつ喚ばわる事やまず。王懼れて諸梵志・太史・相師を集めこの事を諮《はから》う。諸人これは必常妖物の所為と見えるから、胆勇ある者を遣わして看《み》せたらよかろうと申す。王すなわち五百金銭を懸賞してその人を募るに、独身暮しで大貧乏ながら大胆力の者ありて募りに応じ、甲冑を著《ちゃく》し刀杖を執って夜塚間に至ると、果して王を喚ぶ声す。汝は何者ぞと叱ると、我は伏蔵だと答えた。伏蔵とは「田原藤太竜宮入りの譚」に書いた通り、インド等には莫大の財宝を地下に埋めあり、今もそれを掘り当てる事を専門にする者
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