平安朝に、神通自在の天狗が鳶《とび》に化けて小児に縛り打たれた話あり(『十訓抄《じっきんしょう》』一)。
『常山紀談』にいわく、摂津半国の主松山新助が勇将中村新兵衛たびたびの手柄を顕わしければ、時の人これを槍中村と号し武者の棟梁とす。羽織は猩々緋《しょうじょうひ》、※[#「灰/皿」、第3水準1−88−74]《かぶと》は唐冠|金纓《きんえい》なり。敵これを見て、すわや例の猩々緋よ、唐冠よとていまだ戦わざる先に敗して敢えて向い近付く者なし、ある人強いて所望して中村これを与う。その後戦場に臨み敵中村が羽織と※[#「灰/皿」、第3水準1−88−74]とを見ず、故に競い掛かりて切り崩す、中村|戈《ほこ》を振るって敵を殺す事あまたなれども中村を知らざれば敵恐れず、中村ついに戦歿す。依って曰く、敵を殺すの多きを以て勝つにあらず、威を耀かし気を奪い勢を撓《たわ》ますの理を暁《さと》るべしと。中村は近江《おうみ》国の人なり。一日に槍を合す事十七度、首四十一級を得たから世に槍中村と称えたという。それすらその人と知れぬ時は寄って懸って殺しおわる。由ってその人相応の飾りや肩書は必要と見える。この類の話し古くイ
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