うを聞いて猴弱り入り、これは根っからありがたからぬ、半分減じて三十歳に御改正をと聞いて人間またしゃしゃり出で、猴の三十歳を貰《もら》い受けて人寿百歳と定まった。
 かくて人間は万物の長として、最初上帝が賜わった三十年の間は何一つ苦労なしに面白く暮し遊ぶが、三十過ぎてより五十まではもと驢から譲り受けた年齢故、食少なく事煩わしく、未来の備えに蓄《たくわ》うる事にのみ苦労する。さて五十より七十まで、常に家にありてわずかに貯えた物を護るに戦々|兢々《きょうきょう》の断間《たえま》なく、些《いささか》の影をも怖れ人を見れば泥棒と心得吠え立つるも、もとこの二十年は犬から譲り受けたのだから当然の辛労である。さて人が七十以上生き延ぶる時は、その背《せ》傴《かが》み、その面変り、その心曇り、小児めきて児女に笑われ、痴人に嘲らる。これもと猴から受けた三十年だからだと。
 猫と犬の仲悪き訳を解いたエストニアの伝説はこうだ。以前すべての動物至って仲よく暮したが、その後《のち》犬が野で兎などを殺して食ったので、諸獣の訴えにより上帝犬を糺《ただ》すと、他に食うべき物がなければやむをえぬと答えた。もっともの次第とあ
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