。『中阿含経』に白狗が前世にわが児たりし者の家に生まれ、先身の時|蔵《かく》し置いた財宝を掘り出す話あり。その他類似の談が仏典に多いから、伝えて日本にもそんな物語が輩出したのだ。ただし『今昔物語』十一や『弘法大師|行化記《ぎょうけき》』に、大師初めて南山に向った時、二黒犬を随えた猟人から唐で擲《な》げた三|鈷《こ》の行き先を教えられたとあり、この黒犬が大師を嚮導《きょうどう》したらしいから、本邦では黒犬を凶物とせなんだらしい。
 白犬と明記されぬが、犬が人に生まれた譚は仏経に多い。『賢愚因縁経』五に、仏が給孤独園《ぎっこどくおん》にあった時、園中五百の乞児あり、仏に出家を乞うて許され、すなわち無漏の羅漢となる、祇陀《ぎだ》太子、仏と衆僧を請じてこれら乞食上りの比丘を請せず、仏乞食上りの輩に向い太子汝らを請せず、汝ら鬱単越洲《うったんのっしゅう》に往き自然成熟の粳米《こうまい》を取って食えと。鬱単越(梵語ウッタラクルの音訳)は天下勝の義でまた勝処また勝生と訳し、アイテルの『梵漢語彙』には高上と訳しある。須弥《しゅみ》四洲のうち最も勝《すぐ》れて結構な処の意で、もと婆羅門教で諸神諸聖の住処
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